この記事の結論(先読みサマリー)
「虫歯治療は1〜2回で終わるのに、根管治療はなぜ何回も通うの?」――この疑問は当院でも非常によく聞かれます。結論からお伝えすると、根管治療は「削って詰める治療」ではなく「目に見えない感染を減らす治療」だからです。根管内部は枝分かれ・側枝・アピカルデルタなど複雑な三次元構造をしており、機械的な切削だけでは細菌を取り切れません。次亜塩素酸ナトリウム・EDTA・超音波活性化による洗浄、水酸化カルシウムによる貼薬、炎症が落ち着くのを待つ期間――これらを段階的に進める必要があるため、自然と複数回の通院になります。Cochraneレビューでは単回治療と複数回治療の最終的な成功率は同等とされていますが、膿が出ている・腫れているなどの複雑症例では複数回治療の方が安全であることが示されています(Cochrane
2022)。本記事では「通院回数が必要な理由」「歯の種類別の目安」「1回で終わらせるリスク」を、最新エビデンスとともに解説します。
はじめに|「なぜ1回で終わらないの?」という疑問
- ・「虫歯治療は2回で終わったのに、根管治療は5回目です…」
- ・「どうしてこんなに時間がかかるの?」
- ・「他院では1回で終わると言われた、何が違う?」
- ・「通うのが大変、本当にこの回数必要?」
二番町デンタルオフィス(愛媛県松山市)には、根管治療の通院回数に関する疑問を抱える患者さんが多くいらっしゃいます。
たしかに、根管治療は虫歯治療と比べると通院回数が多くなることがあります。しかし、それには明確な医学的理由があります。本記事では、なぜ根管治療に時間が必要なのか、歯の種類による目安、そして「早く終わらせる治療」が必ずしも良い治療ではない理由を、システマティックレビューやAAE(米国歯内療法学会)のガイドラインに基づいて解説します。
根管治療は「削る治療」ではなく「感染を減らす治療」
虫歯治療との決定的な違い
虫歯治療は、感染した部分を機械的に削り取って詰める比較的シンプルな治療です。一方、根管治療は神経の管の中という目に見えない領域で進行する感染を相手にしています。
| 項目 | 虫歯治療 | 根管治療 |
|---|---|---|
| 治療対象 | 歯の表面〜中層の硬組織 | 歯の内部の根管系 |
| 見える範囲 | 直接確認可能 | 大半が肉眼では見えない |
| 主な手段 | 切削+充填 | 化学的洗浄+消毒+封鎖 |
| 通院回数の目安 | 1〜2回 | 2〜6回 |
| 成功の判定 | 即時に視認 | 数か月〜数年単位で評価 |
つまり根管治療は、「目に見えない細菌をどこまで減らせるか」を競う治療なのです。
根管の中は想像以上に複雑
歯の根の内部は、まっすぐな1本のトンネルではありません。実際には主根管から枝分かれする側枝、根管同士をつなぐイスムス、根尖付近で網目状に広がるアピカルデルタなど、極めて複雑な三次元構造をしています。
特に上顎第一大臼歯のMB2(近心頬側第二根管)は、世界全体で約73.8%の頻度で存在することが報告されており(PubMed 30243661, 2018)、これを見落とすと再発の大きな要因になります。
POINT
根管治療の通院回数が多いのは、「削るのに時間がかかる」からではなく「細菌を減らすのに時間と工程が必要」だからです。
根管治療の7つのステップ
根管治療は、次の7つのステップに分けて進めます。各ステップに固有の目的があり、安易に省略できない設計になっています。

① 感染の評価
レントゲン・CTで根の先の炎症範囲を確認し、感染の深さや広がりを把握します。
② 診断
マイクロスコープと歯科用CTで根管の本数、形状、未処置根管の有無を確定します。MB2のような副根管を見つけられるかどうかが、ここで決まります。
③ 洗浄(化学的清掃)
次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)・EDTA・超音波活性化(PUI)を組み合わせ、根管壁のスメア層やバイオフィルムを溶解・除去します。機械的切削では届かない側枝・象牙細管にもアプローチするため、この工程は十分な時間が必要です。
④ 消毒(貼薬)
洗浄後に水酸化カルシウム製剤を根管内に1〜2週間留置し、残った細菌をさらに減らします。システマティックレビューでは、水酸化カルシウム貼薬の臨床的成功率は約75.5%と報告されています(Polish
Endo Soc2022)。この期間を確保するために、最低1回は別日が必要になります。
⑤ 封鎖(根管充填)
根管が清潔で症状が落ち着いていることを確認したうえで、ガッタパーチャとシーラーで根管を緊密に封鎖します。封鎖が不十分だとコロナルリーケージにより再感染が起こります。
⑥ 被せ物(クラウン修復)
失活歯は破折リスクが高いため、できるだけ早期に最終的なクラウン修復を行うことが推奨されています(最終修復が60日以上遅れると生存率が大幅に低下:8年生存率39%
vs 72%、PMC 7041432)。
⑦ 長期管理(メインテナンス)
3〜6ヶ月ごとの定期検診で、クラックや咬合異常、再感染の有無を継続的にチェックします。
歯の種類による通院回数の目安
通院回数は歯の種類・根管の本数・感染の程度・症状の強さによって変わります。一般的な目安は以下の通りです。

| 歯の種類 | 根管数の目安 | 通院回数の目安 | 1回あたりの時間 |
|---|---|---|---|
| 前歯(切歯) | 1本 | 2〜3回 | 60〜90分 |
| 小臼歯 | 1〜2本 | 3〜4回 | 60〜90分 |
| 大臼歯 | 3〜4本(MB2を含む) | 4〜6回 | 90〜120分 |
通院回数が増えるケース
次のような場合は、回数がさらに増えることがあります。
- ・根尖に大きな膿の袋(嚢胞性病変)がある
- ・痛みや腫れが治まらない
- ・排膿が続いている
- ・過去に治療を受けた歯(再根管治療)
- ・根管が著しく石灰化している、または湾曲している
POINT
通院回数は「歯の構造の複雑さ」と「感染の状態」で決まります。同じ大臼歯でも、症状や根管の状態によって3回で終わることもあれば6回かかることもあります。
「1回で終わらせる治療」は本当に良い治療?
単回治療 vs 複数回治療のエビデンス
Cochrane Systematic
Review(2022)は、単回治療と複数回治療の根管治療を比較した28件のランダム化比較試験を統合し、次のように結論づけています。
- ・両者の長期的な治癒率は統計的に同等
- ・ただし単回治療は術後痛・腫脹のリスクが高い傾向
- ・フレアアップ(治療後の急性炎症)の発生率は単回治療でやや高い
つまり、「単純な症例なら1回でも問題ない、しかし複雑症例では複数回の方が安全」というのが現在の科学的コンセンサスです。
早く終わらせるリスク
回数を減らすことだけを優先すると、次のようなリスクが生じます。

フレアアップ(治療後の急性疼痛・腫脹)の発生率は約2.3〜3.17%と報告されていますが(PMC 1402571,2017)、これは「適切な治療プロトコル」下での数値であり、急いだ治療ではより高くなる可能性があります。
POINT
「早い治療=良い治療」ではありません。根管治療の評価は「数年後に再治療せずに済んでいるか」で行われるべきです。
なぜ「炎症が落ち着くのを待つ」必要があるのか
炎症が強い状態で封鎖するとどうなる?
根の先に大きな炎症がある状態で根管を充填すると、密閉された空間の中で炎症が暴走し、激しい痛みや腫脹(フレアアップ)を引き起こすことがあります。
そのため、当院では次のような兆候があるうちは封鎖を行いません。
- ・自発痛(何もしていなくても痛い)が残っている
- ・噛むと強い痛みがある
- ・排膿(膿が出る)が続いている
- ・根尖部の歯肉に腫れがある
- ・レントゲンで根尖病変の縮小が確認できない
これらが落ち着くまで水酸化カルシウム貼薬を継続し、状態を見ながら段階的に進めます。これが「複数回の通院が必要になる最大の理由」の一つです。
患者さんの体調や生活も考慮します
治療間隔は通常1〜2週間が目安ですが、症状が強い時期は短く、安定してきたら間隔を空けるなど、患者さんの状態に応じて調整します。仕事や生活リズムも考慮し、可能な範囲で柔軟にスケジュールを組みます。
二番町デンタルオフィスが大切にしている時間
当院では、根管治療1回あたりに60〜120分の時間を確保しています。これは、次の工程を妥協せずに行うために必要な時間です。
- ・ラバーダム防湿の確実な装着(5〜10分)
- ・マイクロスコープ下での精密な根管探索
- ・NaClO・EDTA・超音波活性化を組み合わせた化学的洗浄
- ・CTやマイクロスコープでの治療経過の評価
- ・次回の治療計画の説明と質問への回答
当院の方針
単に「短期間で終える」ことよりも、「再治療を繰り返さない状態で終える」ことを最優先しています。AAE(米国歯内療法学会)が報告する初回根管治療の生存率は97%以上、再治療では77〜83%と低下します。最初の治療をしっかり行うことが、結果的に患者さんの時間とコストを最も節約します。
FAQ|よくある質問
Q1. 何回も通うのが大変です。回数を減らせませんか?
A.
症例によっては可能です。前歯で感染が軽度であれば2〜3回、小臼歯で3回程度に収まることもあります。しかし、膿が出ている・痛みが強い・大臼歯で根管が複雑な場合は、安全のために十分な回数を確保することをお勧めしています。途中で中断すると治療を最初からやり直すリスクもあるため、ご相談ください。
Q2. 他院では1回で終わると言われました。どちらが正しい?
A.
どちらも「間違い」ではありません。単純な症例(生活歯髄、未感染、症状なし)なら単回治療でも科学的に問題ないことがCochraneレビューで示されています。一方、感染が進行している・腫れている・大臼歯で根管が複雑な場合は、複数回治療の方が術後リスクが低くなります。重要なのは、「歯の状態に合った治療回数を選ぶこと」です。
Q3. 通院期間が長くなると治療効果が落ちますか?
A.
1〜2週間程度の間隔であれば、治療効果に悪影響はありません。水酸化カルシウムの効果は1〜4週間で最大になることが知られており、適切な間隔は治療成功率を高めます。ただし、仮蓋が外れたまま放置すると再感染するため、間隔が空きすぎる場合はご相談ください。
Q4. 1回の治療時間が長いのはなぜ?
A.
根管治療は、ラバーダム装着・マイクロスコープ下の精密処置・薬液による化学的洗浄・超音波活性化・経過評価など、多くの工程を1回の中で行います。特に化学的洗浄は薬液の作用時間(合計15〜30分)が必要なため、どうしても1回60〜120分かかります。短時間で多くの患者を診る診療スタイルとは目的が異なります。
Q5. 痛みが治まったら、もう通わなくていい?
A.
絶対に途中で中断しないでください。痛みが消えても根管内の細菌は残っており、仮蓋のまま放置すると再感染→症状再発→抜歯という最悪のパターンに進行します。最後の充填まで完了して初めて、根管治療は「成功」と評価できます。
まとめ|通院回数は「歯を残すため」の必要時間
- ・根管治療は「削る治療」ではなく「目に見えない感染を減らす治療」
- ・7つのステップ(評価→診断→洗浄→消毒→封鎖→修復→管理)にはそれぞれ固有の意味と所要時間がある
- ・通院回数の目安:前歯2〜3回/小臼歯3〜4回/大臼歯4〜6回
- ・Cochraneレビューでは単回と複数回の長期成功率は同等、ただし複雑症例は複数回の方が安全
- ・フレアアップは適切なプロトコル下で2.3〜3.17%、急ぐとリスク増
- ・「早い治療」より「再発しない治療」――最初に時間をかけることが患者さんの時間・コストを最も節約します
二番町デンタルオフィスでは、ラバーダム・マイクロスコープ・CT・超音波洗浄を組み合わせ、「再治療を繰り返さない精密治療」を提供しています。「通院回数に不安がある」「他院での治療回数が妥当か知りたい」という方は、お気軽にご相談ください。
二番町デンタルオフィス(愛媛県松山市二番町)
電話:089-941-4602/大街道駅・県庁前駅から徒歩5分
診療時間:9:00–13:00/14:00–18:00(日・祝休診)
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参考文献
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